経済格差が深刻です。医療費に関するトラブルが急増しています。
当院の院長は、1997年に医学部を卒業しました。当時、バブル崩壊後の就職氷河期でしたが、医局制度は健在で、卒後、入局して就活を経験していません。履歴書すら書いたことがなく、同級生から羨ましがられていました。
◉1997年当時の信じられない医療情勢。良いか悪いかは別として。
・高齢者の医療費の自己負担がゼロでした。
・田舎、都市部に中小病院が沢山ありました。
・越冬入院がありました。寒い時期、年末年始、ご高齢の方が入院して病院で正月を迎えていました。
研修医やレジデントは、越冬入院の患者さんの内視鏡検査、エコー検査などを行いながら修練していました。ご高齢の患者さんから、「私で練習しなさい」と考えられないお言葉を賜っていました。
当時、バブルが崩壊して不景気と騒がれていましたが、大学病院や大病院で忙しく過ごしていたためか、不景気を体感していません。只々、忙しかった記憶しか残っていません。
現在、開業医として働きながら救急現場でも働いていますが、1997年〜2000年頃よりも今の方が深刻な不景気であると痛感しています。
⚫︎救急病院、急患センターに来院する患者さんの中に無保険の患者さんが居る。しかも多い。
⚫︎経済的な事情で検査を拒否したり、内服を拒否する患者さんが明らかに増えている。
⚫︎60日分を処方しようとすると、薬代が大変なので30日分にしてください、と長期処方を拒否される。内服薬も切れがちである。
⚫︎吐血、下血、呼吸困難でも、無保険や経済的な事情を理由に強引に帰宅する患者さんが増えた。
・国民健康保険料を支払っておらず、無保険となっている方が増えています。
・40歳〜60歳代の患者さんがバイトで生活費を稼ぎながら暮らしているようです。国民健康保険料を支払わずに無保険になっている方が増えています。
ブラック評1)無保険、経済的事情による入院拒否などの患者さんが急増している印象です。そんな頻繁に救急病院、急患センターに居るわけではないのに、無保険の患者さんとの遭遇確率が高過ぎます。
生活に困窮し、医療費を支払えないのは致命的なので、生活保護を申請してでも医療を受けてもらいたいと思っています。
一番困ったのは、国民健康保険料の未納により保険を喪失しているため、医療費が完全に自己負担になってしまうケースです。病院は医療費の請求を患者さんに対して行うのですが、徴収できた例を見たことがありません。
物価が上昇し、収入は変わらないか減っています。正に不景気だと思うのですが、好景気でも不景気でも必ず生き残る経営者は存在するので何とか乗り切りたいです。
◉かかりつけ患者さんが完全に二分されています。
○医療、介護にかかる費用は仕方がないから支払う。もしくは、経済的に余裕がある。
●医療、介護にかかる費用を限りなく抑えたい。薬だけもらえれば良い。
・相手の懐事情を伺いながら、医療を提供する時代に突入しています。25年前からは考えられない事態です。悲しい現実ですが、経営者の先生方は理解されて経営、勤務されていると思います。
赤字にならないようにコツコツと売り上げを伸ばすしかない。
患者さんに対して無理に検査をしないこと、不要、過剰な検査を行わないことは大前提です。
しかし、どこからが不要検査や過剰医療なのかは、非常に曖昧ですし定義もありません。経営者の先生のバランス感覚が大きいと思います。トラブルにならないように気をつけています。
当院の検査内容、方法、経営スタイルが正解ではありません。しかし、閉鎖社会の医療業界ですから、どのような検査を行なって収益を上げているかを知る機会が少ないです。
ご参考になるかは別として、赤字を避けるため、コツコツと頑張っている当院の検査内容につき記載してみました。もちろん、ご了承いただいた患者さんしか検査を行なっておりません。
○指先からの血糖測定 約1700円 原価:ほぼゼロ 純利益:約1700円。
かかりつけ患者さんに糖尿病の患者さんが多いので、測定にご了承いただいている患者さんに対して行っています。
当院の血液検査回数は少ない方だと思います。血糖コントロールが良好、まずまずの患者さんは、6ヶ月毎にしか血液検査を行いません。
HbA1c:7.0%以下の患者さんは、6ヶ月毎にしか血液検査を行いません。また、HbA1c:7.0%〜8.0%の患者さんでも、経済的な事情がある方は検査の頻度を落とします。
(近隣には、糖尿病を有しているという理由だけで、毎月、血液検査を行っているクリニックが存在しています。血液検査の頻度を落とすことは差別化に繋がると考えています。)
採血間隔が長いので、患者さんに説明して、指先から血糖を測定させてもらっています。この検査は、生化学判断料が算定できる上、コストはゼロに近いので利益率が高いです。
⚫︎こちらから見れば、原価ゼロ、1700円の検査ですが、患者さんから見れば血糖測定だけで3割負担:約500円の検査です。
⚫︎血糖測定には、500円の費用がかかるので、ぼったくり、儲け目当てと考え、看護師さんを攻撃してくる患者さんが居られます。そういう患者さんには検査を無理強いせず、電子カルテのメモ欄に「血糖測定不可」、「血糖測定拒否」と記載しています。1200人以上の患者さんのうち、2人〜3人程度です。
⚫︎血糖測定の算定漏れがないように気をつけています。血糖測定しても算定が漏れると利益はゼロです。多い時には、1日:7人〜10人程度、血糖測定を行なっています。算定が抜ける場合、殆どが看護師さんのミスです。
○血液検査の際 C-ペプタイドを測定する。
・内分泌学的検査 2項目以下 130点(1300円) 原価:500円程度 純利益:約800円。
外注検査費用:500円程度ですが、今後、値切る予定です。糖尿病患者さんの自己インスリン分泌能を知るために測定しています。
患者さんは、インスリン分泌が少ないから血糖が上がると思っている方が多いので、説明にも役立ちます。6ヶ月毎の測定をしていますが、返戻の経験はありません。(念のため、糖尿病の患者さんに対して測定し、インスリン分泌異常症の病名をつけています。無くても保険は通るはずです。)
○血液検査の際 D-ダイマーを測定する。
足のむくみ、息切れなどの症状がある患者さんには、深部静脈血栓症の疑いの病名をつけて算定します。
・出血凝固検査 2項目以下 130点×1(1300円) 原価:500円程度 純利益:約800円。
検査を出しまくると、返戻の可能性が上がります。必ずカルテに検査の必要性、結果につき記載します。胸部レントゲン検査とセットで行っていますが、返戻されたことはありません。
・コメント:息切れ、浮腫、下肢静脈炎があり、深部静脈血栓症の鑑別が必要であり、D-ダイマーを測定した。
上記コメントをレセプトに記入しています。D-ダイマーは、凝固系スピッツ1本必要なので、患者さんに説明して採血します。
○NT-proBNPを測定する。慢性心不全の病名をつけます。また、胸部レントゲン、心電図検査を6ヶ月以内に行なっていれば、まず、返戻されません。
・内分泌学的検査 2項目以下 130点×1(1300円)
・上記のCPRとか、骨粗鬆症検査のTRACP-5bなどと一緒に測定すると、項目数が増えて、
内分泌学的検査 3〜5項目 410点×1(4100円)に昇格します。
⚫︎項目数、3〜5項目は、410点です。3項目に抑えた方が利益が大きいということです。患者さんにとっては、同じ金額で5項目測定してもらった方がお得です。
この辺を計算して測定している先生も多いです。6ヶ月毎に見る項目を変えて、3項目に抑えているようです。当院では行なっていませんので、検査費用が膨れ上がっている割に利益が少ないです。考える時期なのかもしれません。
○年に1回の胸部レントゲン、心電図検査を徹底する。
・心電図検査 12誘導 130点×1(1300円)
・胸部レントゲン 単純撮影(診断) 85点×1 単純撮影(デジタル) 68点×1 電子画像管理加算 57点×1 計:210点(2100円)
心電図検査、胸部レントゲン検査を年に1回行うようにし、合わせて血液検査でNT-proBNP、D-ダイマーを測定し、保険での返戻確率を抑えています。
審査、査定の経験上、胸部レントゲン検査、心電図検査と同時に行った血液検査のNT-proBNP、D-ダイマーは、返戻されたことがありません。
胸部レントゲン検査を行なって、腫瘍マーカーを測定した場合も返戻されにくくなります。返戻してくる場合の殆どが、検査の頻度が過剰であることや、検査の必要性が乏しいことを理由としています。
腫瘍マーカーが上昇している場合には、レセプトにしっかりとコメントを記載すると返戻確率が下がります。
例)コメント:CEA:7.8ng/ml上昇し、肺癌を疑って再検査を行った。病名:肺癌の疑い。
3ヶ月毎に測定し続けると流石に返戻されますが、1〜3回程度なら返戻されたことはありません。そもそも、腫瘍マーカーが高いのに返戻する方がおかしいです。病名をしっかりとつけて返戻されないようにした方が良いと思います。
○尿細胞診検査を提出する。
当院は、内科・循環器科ですが、尿潜血、血尿から、膀胱癌、腎臓癌の患者さんを20年間で10例以上、診断できています。
尿細胞診検査は、患者さんの泌尿器系悪性腫瘍を見つけるために必須です。もちろん、尿検査を含めます。
検査点数が高いので、患者さんに説明が必要です。また、数ヶ月毎に行う検査ではありません。1年に1回以下の頻度であれば、返戻されないはずです。
・尿中一般物質定性判定量検査 26点×1 ・外来迅速検体検査加算 10点×1
・細胞診(穿刺吸引細胞診、体腔洗浄によるもの)190点×1 ・病理判断料 130点×1
検尿、尿細胞診検査 合計:356点(3560円)
尿潜血がある場合には、検尿、尿細胞診検査を行うと結構な破壊力の検査です。外注検査を抑えて、1000円くらいで行ってもらわないと利益が出ませんのでご注意ください。
病名:膀胱癌の疑い コメント:尿潜血が遷延し、膀胱癌を疑い、尿細胞診検査を行った。(返戻経験無しです。)
○アレルギー検査
アレルギー症状があり、アレルゲン検索を必要とした患者さんや、アレルゲン検索を希望された患者さんに行いますが、検査点数が凄く高いです。
・特異的IgE半定性定量14種類、非特異的IgE定量検査、CRP 1546点×1
・末梢血液一般検査、末梢血液像(鏡検法) 46点×1
当院では、好酸球を見たいので血計を測定し、CRPも一緒に見ています。合計:1592点(15920円)と点数が非常に高いです。
患者さんの希望があった場合や、測定の必要性が高い場合に行います。当院は、View 39項目検査、アレルゲン39項目を測定してもらっていますが、検査費用は14項目と同じ値段で測定してもらっています。外注検査会社との交渉次第です。
外注検査会社は、アレルギー検査は高点数であると知っているので、言わないと値引きしませんので、是非とも交渉されてください。
病名には、アレルギー性鼻炎、アレルギー性気管支炎などの病名をつけ、コメントを記載することをお勧めします。返戻されると大きいです。また、厚生局の指導でもアレルギー検査は狙われています。
病名:アレルギー性鼻炎、アレルギー性気管支炎など。
コメント:アレルギー性鼻炎、アレルギー性気管支炎により症状が遷延し、アレルゲン検索、精査を行った。
病名、コメントをしっかりとつけて、返戻されないように気をつけています。病名、査定、返礼は、ローカルルールが未だ存在しているので、充分にご確認ください。
ブラック評2)検査を全くされない患者さんも大勢おられます。検査を拒否された場合には、カルテにしっかりと記載しておいた方が良いです。
長引く尿潜血があり、膀胱癌であった場合には、トラブルになることがあります。逆に、尿細胞診検査を提出して異常がなければ、医師としての過失を問われることは殆どありません。(症状が強ければ別ですが。)
肺癌の見逃しが怖いので胸部レントゲン検査をしない方針の先生が居られます。むしろ、非常に危険だと思います。もし、患者さんが他の医療機関を受診した際、肺癌の終末期であれば、訴訟のリスクも出てきますし、何よりも患者さんのためになりません。風評被害も出てきます。
心電図検査、胸部レントゲン検査、検尿検査など、患者さんの病態把握、疾病診断に有効な検査は是非ともするべきと考えています。
経済的な事情で検査を受けない患者さんは、無理強いしたり、説得を試みたりせずに、カルテに記載するだけです。説得して検査を行う時代は終わったと考えています。寂しいですが、説得して感謝される時代でもないようです。
(検査、病名などについては、当院の経験、保険審査の経験を元に記載しています。ご了承ください。)
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