個別指導に呼ばれる理由を掴む。
◉個別指導に呼び出される理由は、下の2点です。
⚫︎患者さん一人当たりの診療報酬平均点数が高いクリニック、病院。(条件は、繰り返しですので既読の方は、すっ飛ばして下さい。)
条件)各都道府県のクリニック、病院で、診療科の上位4%の高診療報酬(患者さん1人当たり)かつ、各都道府県の診療科の患者さん一人当たりの診療報酬平均点の1.2倍(クリニックと病院で違います)に該当した先生が、集団的個別指導に呼ばれ、その2年以内、同条件を満たしていた場合に個別指導の対象となる。(経験的に2年と記載します。)
⚫︎通報、内部告発などの個別の理由。
過去に記載いたしました通り、個別指導に呼ばれたとしても、病名を正しく付け、カルテを丁寧に記載し、保険診療に基づいた医療を提供していれば、そうそう、大問題に発展することはありません。
しかし、個別指導に呼び出されると、「返金要請無し」であったクリニックは殆どありません。10件〜20件に1件あれば良い方です。「返金要請無し」であったクリニックの殆どが「新規個別指導」です。
⚫︎返金要請無しのクリニックの殆どが「新規個別指導」。開業後1年以内のクリニックに対する個別指導。
⚫︎集団的個別指導を経て、個別指導となったクリニックは、殆どが返金を要請されている。
1)医療の現場では、大勢の患者さんに対して医療を提供していて、常に時間が無いし、人不足である。
2)医科点数表、保険診療の手引きなど、参考資料を見ながら医療を提供しているわけではない。
3)個別指導で指摘されるような医療を行っていると、診療できる患者さんの数に限りが出てくる。
保険診療を提供している以上、守らないといけないことは重々承知していますが、個別指導に関わっていながら、「それは流石に厳しすぎる」、「医療の現場では不可能に近い」という指導内容が多々あります。行政と現場の乖離としか言いようがありません。
◉個別指導に発展するケースの中には、通報、内部告発も多々あります。庇うことは不可能に近いです。
基本的に、個別指導の際、厚生局は、個別指導に呼び出した理由を教えてくれません。しかし、納得いきませんし、可能であれば理由を知りたいので、個別指導の前後、指導官に尋ねます。
まず、個別指導呼び出しの理由を尋ねている先生が少ないです。また、理由が分かったとしても、呼び出された先生に情報提供していません。
これは、おかしいのではないか?と思います。個別指導の対象の先生は、平日の昼間、クリニックを休診にして個別指導に出ていますし、ブラックも、平日の診療時間を犠牲にして個別指導に参加しています。
せめて、個別指導が行われた理由くらいは教えてもらわないと納得できません。この点、医師会の先生、厚生局の指導官は、個別指導に呼び出した理由を当事者に伝えるように改善してほしいです。
実際、尋ねると、高確率で教えてくれます。「今回の個別指導の呼び出しの理由はなんですか?」:「高点数ですね」と気軽に教えてくれるものです。(あっさり教えてくれることが多いですが、「言えません。」とかいう場合には、しつこく尋ねて渋々教えてくれます。)
ただ、通報、内部告発などの情報提供の場合には、「今回の個別指導の呼び出しの理由はなんですか?」と尋ねても、「個別指導の理由は、お答えできません。」と繰り返し返答します。この場合、まず、通報、内部告発による個別指導です。情報提供者を守らないといけませんから、呼び出しの理由を教えることができないわけです。
明らかに通報、内部告発によると推測される個別指導を振り返り、何か学ぶことはないか?検討してみます。
糖尿病治療薬を自費算定していたケース。
●慢性心不全の病名がある場合、メトホルミン製剤を処方すると、保険で査定を受ける可能性が高いです。
●メトホルミン製剤は、安価で良い薬です。世界的にも、糖尿病学会の指針でも、第一選択薬として推奨されています。
●メトホルミン製剤には、心不全、腎不全などの禁忌病名が多いため、患者さんの持病、病名に要注意。査定を受けやすい薬です。
◉個別指導となったクリニック:内科クリニック 院長:60歳代
・個別指導:いきなり、厚生局から個別指導の通知が来て、個別指導。集団的個別指導を経ていない。
・個別指導の理由:教えもらえない。集団的個別指導を経ていないので、高点数ではないであろう。また、指導官に繰り返し尋ねるも、「個別指導の理由は教えることはできません。」の一辺倒であった。
・明らかに通報か内部告発であろうと感じました。
⚪︎個別指導の指定カルテ30冊のうち、12冊が糖尿病の患者さんであり、処方薬に「メトホルミン」が含まれている患者さんが多かった。
⚪︎指導内容:メトホルミンが処方されていますが、メトホルミン製剤のみ、自費診療となっているカルテが7冊あります。
⚪︎返金要請:メトホルミン製剤を自費診療で処方していますが、カルテを拝見しますと、同日、糖尿病治療薬の処方、血液検査、特定疾患指導管理料などを算定されています。明らかに混合診療ですので、保険診療分は返金してください。
結果)メトホルミンを自費処方している患者さん7名の1年分の保険診療報酬、薬剤料など、全ての返金を行いました。
⚫︎最悪なのは、返金を要請された患者さんの中に、インスリン製剤を使用している患者さんが数名含まれていた。
最悪というのは、インスリン製剤を使用していると、管理料や薬剤料が高額であり、返金額が膨れ上がることを意味しています。
返金額:400万円以上でした。指導管理料、薬剤料まで返金する羽目になり、1人あたり100万円以上の返金が3名も居ると、返金額は高額になります。
ブラック評)60歳代の先生でした。非常に不思議なのは、妥当な医療を行なっているのに、「なぜ、メトホルミンだけを自費扱いとしたのか?」
先生に尋ねると、慢性心不全の患者さんが多く、メトホルミンは安価で良い薬であるが、メトホルミンの査定を受け続け、その対策として、「心不全の患者さんのメトホルミンのみ自費」とした、という理由でした。
保険で査定を受けたとしても、メトホルミンは安価な薬なので、大したことないでしょうに。勿体ない話です。
厚生局が断罪する「混合診療」の恐ろしいところは、メトホルミンを自費診療、自費処方で診療した日、同日に行った医療は、「混合診療」とみなし、全てを返金を要請する点です。
これは、視点を変えれば、「メトホルミンの自費診療」を「保険医療として認めてくれる」と助かるのですが、「薬剤の査定逃れのために自費診療扱いとする」のは、印象としては最悪のようです。
個別指導の対象となった先生に尋ねますと、個別指導で呼び出される2ヶ月程度前、メトホルミンを自費処方している患者さんと揉めたようです。
患者さんから、「メトホルミン製剤だけ、なぜ、自費診療にしているのか?」と尋ねられています。
先生は、「あなたは心不全があるので、メトホルミン製剤は保険が通らない。」と説明しています。
患者さんは、「保険が通らないのに、薬を出してよいのか?違法じゃないか?」と再度、質問されています。
先生は、「黙って薬を飲んでおきなさい」と説明するも、その後、その患者さんは来院しなくなったそうです。
推測ですが、その患者さんが厚生局に通報し、通報内容が具体的であったため、厚生局は「個別指導」に動いたのでしょう。
◉保険で査定されるからといって、安易に自費診療を行うと、「査定逃れの自費診療」、「混合診療」と断罪されて大変なことになります。
睡眠薬を自費で処方していたケース。
●不眠症の患者さんに対し、睡眠薬の処方上限日数は、30日分です。
●睡眠薬を複数、処方すると、保険では査定を受けてしまいます。
◉個別指導となったクリニック:内科クリニック 院長:60歳代
・個別指導:いきなり、厚生局から個別指導の通知が来て、個別指導。集団的個別指導を経ていない。
・個別指導の理由:教えもらえない。高点数ではない。「個別指導の理由は教えることはできません。」の一辺倒であった。(集団的個別指導を経ていない。経験上、個別指導の理由を教えてくれない場合、殆どが通報か内部告発です。)
・こちらも、明らかに通報か内部告発であろうと感じました。
⚪︎個別指導の指定カルテ30冊のうち、10冊程度が不眠症の患者さんであった。
⚪︎指導内容:フルニトラゼパム(サイレース)を処方している患者さんに対し、同月同日に、トリアゾラム(ハルシオン)を自費診療で処方しています。他の不眠症の患者さんも同様に、保険診療における睡眠薬の過剰処方を避けるため、自費診療をおこなったと疑わざるを得ないケースが目立ちます。
⚪︎返金要請:睡眠薬を自費診療で処方していますが、カルテを拝見しますと、同日、保険診療において睡眠薬を処方しています。混合診療ですので、保険診療分は返金してください。
結果)保険診療で睡眠薬を処方し、なおかつ、自費診療で睡眠薬を処方している患者さん10名の1年分の保険診療報酬、薬剤料など、全ての返金を行いました。
返金額:50万円未満でした。不眠症の治療は、管理料や血液検査が殆どなく、保険診療自体が安かった。
ブラック評)メトホルミンのケースと同様、保険が通らないからといって、自費診療で睡眠薬を処方すると、「査定逃れの自費診療」、「混合診療」と断罪されます。
個別指導で呼び出された先生に尋ねると、不眠症で自費診療を行っていた患者さんが、睡眠薬を保険診療で処方していないことを逆手にとって、「出るところに出てもいいんだぞ。」と恐喝まがいな男に変貌したそうです。また、同じように来院していた若い女性にコワモテの男が同伴し、同様に脅されたそうです。
院長は、毅然と「もう、睡眠薬を処方しません。」と返答したそうですが、他にも同様の自費診療をおこなっていたため、通報されたのでしょう。
ここからは推測ですが、自費診療で睡眠薬を手に入れても、ネットや闇で販売しても儲けが少ないはずです。保険診療で3割で入手して、ネットや闇で販売するからこそ、利益が出るわけです。
犯罪に手を貸すことと同義なので、睡眠薬の自費診療は行わないに限ります。保険証が無い方は仕方ないけど。
薬局を信じて、とんでもない大問題に発展したケース。
●知り合いの薬局の薬剤師から、勃起不全の相談を受け、シルデナフィル(バイアグラ)を処方した。
●薬剤師の先生が、他にも悩んでいる同僚が居る、と氏名、生年月日を告げられ、シルデナフィル(バイアグラ)を処方した。
半年間を経て、気がつけば、20人以上に対し、シルデナフィル(バイアグラ)を処方していたが、実際に診察したのは、薬剤師の先生1名であった。
薬剤師の先生の薬局が、急に1ヶ月の業務停止処分となり、患者さんが「薬を処方してもらう薬局が無い」と相談を受け、初めて行政処分を受けていたと知った。
薬剤師の先生が、シルデナフィル(バイアグラ)をネットで販売したり、個人で売買をしていたことが判明した。過去に遡ると、シルデナフィル(バイアグラ)を売買して、数千万円の現金を得ていたことが判明し、医師会、薬剤師会を巻き込んで大問題となった。
ブラック評)メトホルミン製剤の件、睡眠薬の件、シルデナフィル(バイアグラ)の件もそうですが、保険診療を正しく行うべき、という安易な言葉ではなく、社会で信用できる人は少ない、ということだと考えています。
例え患者さんであっても、職員さんであっても、薬剤師の先生であっても、非合法なことを行うということは、他人に弱みを握られることと同じことです。
⚫︎メトホルミン製剤が処方できない、保険で査定を受けるのであれば、心不全でも処方できる糖尿病治療薬に変えれば良いだけです。安易な自費診療は、通報のリスクを高めるだけです。
⚫︎睡眠薬は、保険診療内でも治療が困難であれば、精神科、心療内科に紹介すれば良いだけです。自費で処方する、過剰に処方し、過剰分を自費にするなど、危険でしかありません。
⚫︎シルデナフィル(バイアグラ)の件は、論外です。よく、30日間の営業停止で済んだものだ、と呆れました。
保険診療を行っている先生の「自費診療」は、リスクが高い行為だと認識していただきたいです。もし、「自費診療」を行っている先生がおられましたら、
1)自費診療の際には、自費診療用のカルテを別に作って、診療、処方を行う。
2)自費診療を行った際、同時刻に保険診療を行うと、「混合診療」と断罪される可能性が高い。
この2点は、肝に銘じておかれてください。「自費診療」はリスクが高いので、シルデナフィル(バイアグラ)処方を2名〜3名、かかりつけ患者さん行っている程度です。もちろん、カルテを別にして、通常診療日とは別の日に来院してもらっています。
個別指導対策、第三弾は、コチラです→https://町医者の博打と投機と良い医療.com/clinic-open/厚生局の個別指導を乗り切る%E3%80%80金を取られないた/