鬼の厚生局の個別指導。現場の忙しさなんか無関係。
各地区の厚生局の個別指導では、以前に記載いたしました通り、医科点数早見表、診療報酬点数表などの電話帳みたいな分厚い本に則って、指導を行います。
臨床医が1年間で最も接する機会のない本が、この医科点数早見表ではないか?と感じるほど、現場では縁遠い本です。勤務医の先生は、まず、開くことも見ることもないです。
開業医の先生は、検査に応じて診療報酬がどれくらいか?月に何回、算定できるのか?日々の診療で算定できる検査はないか?探す場合に開く本です。ほとんどは、医療事務さんが確認してくれています。開業医の先生でも、あんまり開くことはありません。
ブラック、厚生局の個別指導、監査の仕事を引き受けて、「へー、そうなんだ」って思いながら、現場では悟られないように格好つけているだけです。知らないことだらけです。
医科点数早見表、診療報酬点数表って、表って名前ですけど、電話帳みたいな分厚い本です。この本を読む暇があったら、ガイドラインを読んだり、看護師さん、医療事務さんと働き方について話し合った方が、余程、有意義です。
繰り返しですが、個別指導に呼び出される条件。(新規開業の先生は除く。新規開業の先生は、開業1年間以内、もれなく、個別指導が行われます。)
1)各診療科、患者さん一人当たりの診療報酬の平均点数が、地区診療科別の平均点数の1.2倍、かつ、上位4%で集団的個別指導に呼ばれて、2年以内に改善のない場合です。経験的に2年と記載しています。
2)不正医療、過剰診療などの通報があった場合。
特に、1)の条件に当てはまらないようにご注意ください。診療科別というところがポイントです。内科の先生、患者さん一人当たりの診療報酬点数1200点、小児科の先生、患者さん一人当たりの診療報酬点数800点であろうが、診療科別の平均と、診療科別の順位で呼び出されます。
結構、知らない先生が多くて、「うちは平均点数低いのになぁ」って言われる先生がおられますが、低くても、周囲に同じ診療科が少ない、過疎地域である、などの条件だと、1.2倍、上位4%をクリアしてしまうから、呼び出されているのです。
ホント、国って狡猾です。診療科別に呼び出すから、全ての診療科の先生が呼び出されないように警戒して診療報酬を下げる。結果、医療費を抑制するって狙いです。
個別指導、監査が行われる日にちは、1ヶ月〜2ヶ月前にクリニック、病院に封書で通達されます。同時に所属の医師会に通達があります。
個別指導の行われる場所:厚生局の建物か都道府県医師会のビル(現地監査は、監査対象の医療機関)
⚫︎敵:厚生局のスペック
・カルテを審査する医者:肩書き:厚生局指導監査課 指導医療官 厚生労働技官 2名
・院内掲示物、支払い内容などの審査:厚生局事務員
⚪︎中立:都道府県医師会 保険担当者 県、市町村の理事の先生 2〜3名
名刺には、「厚生局指導監査課 指導医療官 厚生労働技官」という堅苦しい役職の先生は、毎日、分厚い本を読み漁り、読み耽り、個別指導、監査のために日々の時間を刻んでいます。その職責に感嘆するほどですし、まず、ブラックはできないなって思います。
日々、診療で多忙を極める先生は、個別指導で呼びつけられたり、現地監査でカルテのチェックが入っても、勝てるはずがありません。だって、相手は、毎日、毎日、この分厚い本を手垢が付くまで読み漁っているからです。
逆に、「厚生局指導監査課 指導医療官 厚生労働技官」のオッサンを救急救命に連れてきても、何にもできないでしょう。それと同じことです。
戦って勝てる相手ではありませんから、個別指導、監査で指摘され、返金されるポイントを押さえてカルテを記載して、検査を行うしかありません。
医科点数早見表、診療報酬点数表には、算定要件が記載してありますが、全項目において抜けを無くすことは不可能です。返金すると痛手を被る高い診療報酬で原価の低い、利益率の高い医療行為について狙いを定めて、具体的に対応するしかありません。
厚生局は、管理料の原価は、あってないような物と認識していますので、管理料を思いっきり狙ってきます。ただ、血液検査の結果についてカルテに記載していないと、検査についても返金を要請してきます。全く油断はできません。
管理料と診療報酬の高い検査です。具体例をあげてみます。
管理料の高いもの。狙われる管理料。
繰り返しになりますが、管理料の元手は無いに等しいです。でも、酸素療法に関しては、帝人やフィリップスのような会社が間に入っていますので、返金要請されると大損します。
◉例1)睡眠時無呼吸症候群のCPAPについて。
通年のカルテですと、(カルテは「SOAP」記載。)(「S」:患者さんの主観的情報(Subjective)、「O」:客観的情報(Objective)、「A」:評価(Assessment)、「P」:計画(Plan))
「S」:変わりなし。睡眠良好。
「O」:血圧130/80mmHg。心音、呼吸音、異常なし。
「A」:CPAP:毎日、装着している。
「P」:次回、胸部レントゲン。
忙しいと、カルテは簡潔になりますが、厚生局からは付け込みどころ満載です。睡眠時無呼吸症候群で在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)を行なっている患者さんの算定する点数って、相当に高点数です。
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料:250点(2500円)
在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算:3750点(37500円)
1)在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料に関しては、睡眠ポリグラフィー検査を定期的に行い、睡眠時の無呼吸指数、装着時間、装着日数をカルテに記載し、指導を行なった場合に算定できる。カルテには、無呼吸指数、装着時間などの記載はなく、酸素飽和度の記載もないので、管理料は算定できません。
2)在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算に関しては、睡眠ポリグラフー検査の結果を元に、リーク量や機器の作動状況を確認し、患者への装着の不具合、装着の程度の確認を行うこと。また、治療器を提供している会社からのデータを踏まえて、治療を十分に行えているか、確認すること。
以上から、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料、在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算については、カルテに記載がないので、返金を要請します。
1ヶ月=2500円+37500円=40000円、1年=40000円×12ヶ月=48万円。患者さんは3割負担でしたので、7割=48万円×7割=33万6千円の返金要請でした。
◉例1)在宅酸素療法の場合。(カルテの「A」のみ記載)
「A」:変わりなし。酸素3リットルを継続しましょう。
在宅酸素の患者さんも相当に点数が高いです。
在宅酸素療法指導管理料:2400点(2万4000円)
酸素濃縮装置加算:4000点(4万円)
酸素ボンベ加算:880点(8800円)
1)在宅酸素療法指導管理料とは、在宅酸素療法を行う上での注意、留意点につき、指導した場合に算定できるので、酸素の流量確認は、指示であり、指導ではない。「入浴中も酸素をつけているのか?」、「トイレに行く際も酸素をつけることができるように延長チューブを使用してください。」、「酸素ボンベの近くにストーブ、ヒーターなどを置かないように」などが指導管理である。
2)酸素濃縮装置加算、酸素ボンベ加算については、在宅酸素ボンベを納入している会社からの酸素残量の記載がカルテに見当たらないこと。濃縮酸素の流量が安定しているか?業者を通じてでも良いので確認しているかの記載が無いこと。酸素ボンベの在宅への搬入記録が無いこと、など、不備が多く、算定はできません。
酸素会社からのデータ、酸素ボンベ搬入記録、酸素ボンベの残数の確認などを行なっていないと、厳しく返金を要請されます。
1ヶ月=24000円+40000円+8800円=7万2800円、1年間=7万2800円×12ヶ月=87万3600円。この患者さんは後期高齢者、自己負担1割でしたので、9割=78万6240円の返金要請でした。
酸素に関しては、カルテ記載、酸素ボンベ会社やCPAP提供会社からのデータをカルテに記載して、指示ではなく、指導になるように気をつけてください。しっかりと記載していれば返金は要請されません。
予想外に多い整形外科リハビリテーション、注射の返金。
厚生局側からすると、リハビリテーションはコストがかからずに診療報酬が高いと考えているようです。
リハビリテーションを行う場合、理学療法士の先生の雇用は必要だし、設備も必要だし、送迎も必要だし、コストは掛かっているので、厳しく指導することはないのに、って同情します。
◉リハビリテーションに関しては、150日までのリハビリテーションに関しては、そんなに厳しくありません。
問題は、150日を超えてリハビリテーションを行なった場合、返金要請が急に多くなります。
1)カルテ内にリハビリテーションを継続する必要性が記載されていない。
2)カルテにリハビリテーションの計画書、指示書が作成、添付されていない。
3)病名が、「右肩関節周囲炎、右鎖骨骨折」から、リハビリテーション150日後、「左肩関節炎、脱臼」に代わっている。本当に骨折や脱臼をしたのか?レントゲン撮影を行なっていないので、リハビリテーション目的の病名と捉えます。150日を超えたリハビリテーション部分については返金をしてください。
まず、病名が大事です。厚生局が、リハビリテーションが必要と分かるような病名をつけ、可能であれば、レントゲン、MRIなどの検査を行い、関節進展度、屈曲度などの具体的な数字を記載しておかないと、うるさいです。
さらに、リハビリテーション計画書、リハビリテーションの指示書。リハビリテーションを行なった日数、時間、理学療法士の氏名などを記載しておかないと、返金がなかったとしてもカルテ記載が不十分と判断されて、再指導となります。
◉注射:最近、指導が多いのは、アルツ(ヒアルロン酸ナトリウム)の関節内投与についてです。
アルツの関節内投与の適応は、変形性膝関節症、肩関節周囲炎、関節リウマチによる関節痛です。
週1回、連続5回までが適応です。
高齢の患者さんは、大体、両側の変形性膝関節症がありますので、右膝に5回、左膝に5回、10週間、関節内投与して、肩関節にも打ち、合計、10週間以上、アルツの関節内投与を行なっている先生が居られます。
別にいいじゃんって思うのですが、厚生局は気に食わないようです。特に、病名に関節リウマチをつけて関節内に投与している先生は要注意です。
関節リウマチの病名でアルツを継続して関節内に投与している。そもそも、関節リウマチと診断した根拠が見当たらない。関節リウマチは、関節症状、リウマチ独特の症状に加え、炎症反応、赤沈、抗CCP抗体陽性などの診断基準を満たして確定する病気である。
カルテには、関節リウマチと診断した明確な理由がなく、また、血液検査にも見当たらない。アルツの過剰投与と思われるので、アルツ投与に関わる医療費は返金してください。
内科、整形外科、リハビリテーション科は、目下、狙われていますので、ご注意ください。もちろん、必要な医療はガンガンと行い、カルテに病名、根拠などを記載しておけば問題ありません。
個別指導を受ける際の注意点。何を目指すのか?
返金を如何に逃れるか?これは個別指導の目的ではありません。
厚生局の個別指導の最悪の結果は、返金ではなく、監査への発展、もしくは、再指導です。個別指導は、持参カルテは、せいぜい30冊ですから、返金額は知れています。監査になると、クリニックの掲示物から多数のカルテの内容、施設基準までチェックされますので、経営の基盤が壊れかねません。
再指導も同様です。1年後を目処に再指導が行われますが、再指導のことを考えると、日々の診療での検査が満足に行えません。萎縮してしまいます。
狙いは、監査にならないよう、再指導にならないよう、経過観察か問題なし、と評価されることです。問題なし、と評価されるクリニックは非常に稀なので、経過観察とされれば、概ね、逃げ切った、と考えて良いと思います。
少なくとも、集団的個別指導に呼ばれた段階で、クリニック、病院の患者さん一人当たりの平均診療報酬点数を計算するべきです。
これは、全体の診療報酬をレセプト枚数で割ってもダメです。社会保険、国民健康保険、前期高齢者、後期高齢者、それぞれで一人当たりの診療報酬の平均点数をだし、全てが、開業地区診療科の平均点数の1.2倍以下になっていないと安心できません。
電子カルテで行えば簡単な業務ですし、都道府県の診療科別平均点数は、厚生局のホームページに記載されていますので、是非ともご確認ください。
折角、頑張って得たお金ですから、返金にならないよう、まずは集団的個別指導に呼ばれないように気をつけましょう。
眼科、皮膚科、耳鼻科などの個別指導についても、いずれ、記載いたします。
個別指導対策第一弾は、こちらです→https://町医者の博打と投機と良い医療.com/clinic-open/金をブン取られないカルテの書き方%E3%80%80個別指導対/